与太話:TVに出られない僕のこと

ビルの隙間を吹く風も、足早に家路につく人々の表情も、僕に対して本当に冷たい。これは朝夕の寒さのせいではないだろう。天気予報を見て慌てて手に取ったステンカラーコートも、ランダムに再生されイヤホンから聴こえる山崎ハコも、決して僕を守ってはくれない。そのキッチュな雰囲気で人を選び孤独な自分の駆け込み寺になってくれる近所の居酒屋さえも、ここ数日は明日へのアンテナを稼動停止させた大学生がたまっていて、決して僕を入れさせてくれない。

「これは由々しき事態であるな」

そう、数日前からずっと、由々しき事態である。

 

ウチくるというバラエティ番組が好きだ。

この番組では毎回異なるゲストを呼び、ゲストの半生を当時の思い出の品や知人の証言をもとにカジュアルに明かしていく。

ゲストたちはよく行くお店や気になるお店を紹介し、そこでささやかに人間性を捧げ、笑い、感傷に浸る。程よい多幸感だ。捧げられた人間性はその生贄量に応じて人の心を打つが、取っ付きやすさは生贄量に反比例する。

また終盤になると、旧友や両親、無二の親友からの本音を聞き、ゲストは涙する。誰も不幸にならない、平穏な番組である。番組開始からの経過時間と、生贄量とが比例関係にあるようだ。例に漏れず僕も多幸感を分けてもらい、一丁前に時間を有意義に使ってみたくなったり(ならなかったり)する。

 

しかし、あの日の僕は違った。番組が終わってふと思ったのである。

「俺はこのままでウチくるに出られるのか??」

 

僕には僕なりに歴史があるので、有難いことに振り返る半生はある気がする。誰だって波乱万丈なのだ。うん、そこは問題ない。小学校の屋上からサッカーボールを投げてたことなどで笑いを取れるだろう。ガハハ。

 

当時の思い出の品なんかがあると尚良いんだな。子供の頃は勉強ばかりしていたが、さすがに当然昔使っていた参考書やドリルなど後生大事に抱えているわけがない。これでは僕のアイデンティティが掘れない、番組制作会社に迷惑をかけてしまう。これではいけない。

賞状はどうか、絵画・習字・スポーツあたりでそこそこに数だけなら取っているな。でも色彩感覚は皆無だし字は習字を辞めてから上手くなったしスポーツは貧弱な体型をした今の自分からは信じてもらえないだろう。話が膨らませられない。

やはり卒業アルバムが鉄板か?しかしアルバムは既に紛失している、多分実家を出るときに一緒に処分してしまったのだろう。

 

うん?これはマズいのではないか?墓地に葬った文物たちが、悠久の時を経て僕を苦しめ始めた。なんなんだ、ほろびのうたか。あとになって顔を出すんじゃないよ。お前たちを生贄にすることで、俺は辛うじて歪みという自己を確立したんだぞ。ふざけるな、保田圭だって今幸せそうにしているじゃあないか。

 

いや落ち着け。知人の証言があればまだ盛り上がるはずだ。知人が出演してくれればいい。思い出の品だって何かしら持ってきてくれるかもしれない。

小学校の友人はどうか。いるにはいるが彼らがわざわざ出演してくれるのか?思い浮かんだ2人は、社会を支えるエリートとなっており僕のような湿地帯の童貞にはアレルギーがあるかもしれない。

中学校の友人はどうか。こちらも浮かんだ数は少ないが、出演してくれる可能性はあるな。しかし中学時と書いて暗黒時代だ。出来ればスルーしたい。捧げる人間性の割に合わない。

高校の友人はどうか。これは1人ぴったりな人が思い浮かぶ。が、連絡が取れない。取ろうと思えば取れるが、今現在でそんな距離感の友を呼び出すのも失礼な気がする。そんなエピソード不足のグラビアアイドルみたいな細いマネをするのは美意識に反する。

そうなると残りは大学の友人しかいない。大学時代は自己形成という意味でも最も外せない時間だ。しかしそれは同時に僕の大学時代が歪曲と屈折の時間だったことを意味する。そんな僕のような人間の友人が自ら進んで衆目に晒されてくれるだろうか。

 

だいたいトークをするお店はどうするんだ?そもそもたまに外食をしても友達を呼ぶわけでもなく1人で気持ち悪い顔をしながら携帯や本を読んでる僕なんかに紹介されて店側は快く思うのだろうか。

大体僕の風貌と相まって紹介された店が魅力なく店員も頼りないと思われたらどう落とし前をつけられるだろうか。

 

「やはりこれは由々しき事態であるな」

もう何度目かの辟易をした僕は、取り敢えず困ったら行く喫茶店に、季節外れに冷たいカフェオレを飲みに行くことにした。恐らく僕を覚えていてくれている店員の対応も、今風で無機質な店のデザインも、僕に平穏を与えてくれる。明日からの旅行の予定で頭がいっぱいな老人たちも、ドアから入り込む隙間風も、それぞれに歴史があるし、歴史があるということはそれまでにそれぞれの曲折があったのだ。成る程なぁ。でもそれじゃあTVショーには映えないかなぁ。僕たちは今日も輪廻の中で苦悶する。掻き混ぜられたカフェオレは、刺したストローを氷ごとその攪拌の渦に飲み込んでいく。友人からきた転職の報せは、老人を見ていた僕を我に帰し返信を急がせる。

 

雑記:SW中に観たり聴いたりしたモノについて②

月末、それも期末ということで、忘れないうちに。今度は映画と本。

 

・シンゴジラ(2016)

今更ではあるが、鑑賞してきた。20代という肉体的余力と頭脳的余力の塩梅が1番ちょうど良い時期に、お金がない節約中だなどという醜悪なエクスキューズを立てて映画館に赴かなかったことを心から恥じたい。派手なアクションに興奮する純然たるエンターテイメントとしても、示唆に富む描写多い客観的な文化芸術としても本当に申し分なく、且つこの二側面のバランスが素晴らしい良作であった。

基本的に物語というのは、主人公あるいはそうでなくとも登場人物が、作中で如何に位置付けられどう眼前の世界に対峙するかというのが基本的なエートスであり、それを鑑賞する我々は各々でいずれかの人物に自己投影や感情移入をして楽しむ、という消費のされ方をする。そうした自己投影や感情移入なく良し悪しを楽しむことも勿論可能だが、その時の感想は「好きかどうかは置いといて良い」というどこか評論家気取りの感想になってしまうように思う。

ところが僕にとってのシンゴジラはこの前提とは異なった作品であった。例えば嶋田が海外主導の意思決定に涙する場面(ネタバレになって申し訳ない)などは太平洋戦争を想起させることもあって「日本人として」感情移入出来るところではあるが、自分が日常において制御できない外生変数によって振り回されていることを思い出して「個人として」感情移入するか、となるとスケールの大きさや外生性の違い故なのか少し違和感を覚える。

これに限らず、自己投影をするような人及びポイントというのが、僕個人にはあまり見当たらなかったのである。群像劇であったとしても登場人物や登場する組織にあたるスポットで心情は推して測れるのに、である。

この理由は、この映画が組織対共通敵の構図で成立しているからなのかなと思っている。一般的に見て人間が環境や巨大な共通敵と向き合う作品自体は映画に限らず決して珍しいモノではないように思う。そしてこのような作品では、何であれ自分を飲み込まんばかりの大きな対象との対峙の中で自己を見つめ、それによって本質的に孤独であることの自覚や、異なれども手を取り合う仲間(ここでいう仲間とは必ずしも人ではないかもしれない)との触れ合いによる変化がある。それによって対峙に(一旦)カタがつき1つの作品が終わるという構造だ。つまりアプローチは何であれ、個の内的変遷が作品全体において避けては通れないテーマとなっているのだ。(ここら辺は後述の老人と海の感想で詳細に書きたい)

一方でシンゴジラは、官僚・政府・日本…と、一貫して組織集団が環境や外敵と(ゴジラ、環境汚染、諸外国)対峙するという構図であり、それを通して""自分たち""を認識するものだ。勿論意思決定などを見ると個々人の人間性は見え隠れしているが、それはあくまで部分でしかない。例えば登場人物同時に恋愛関係がないことなどを踏まえてもそうしたことは排除したかったのだろうと思える(事実庵野監督はその設定を拒否しているようである)。

それにもかかわらず、全体を通して大きな共感に身体を支配されたというのか、グッとくることばかりで、今までにない読後感であったというのは、たかだか20数年しか生きていない、文化教養偏差値の低い僕のキャパシティをはるかに超えるものだったということだろう。まだ世界には面白いものが沢山溢れているのだろうなとも思える、本当に自分が今後生きていく上でも大きな意味を持つ一作であった。

余談だけど、庵野さんが関わっている作品(エヴァとかナウシカとか)をよく見ている人はより楽しめたのだろうなと思った。ゴジラであってゴジラじゃなさも少しく感じたというか。

 

名探偵コナン 沈黙の15分(2011)

逆にスゲェ。何故これを見たのだろうか。

 

ヤッターマン (2009)

B級映画は嫌いじゃないのでツッコミを入れながら楽しく鑑賞できた。B級映画という位置付けは違うかもしれないが、これはジャニーズ好きと深田恭子好きと一部の物見遊山な懐古厨しかターゲットにならないのでは?と思ったのでそうレッテル貼りさせてもらった。終始なにが言いたいのかしたいのかよく分からず、でも内容とその結末は想像がつく、というただの娯楽以外にどういう風に見ればよいのか全くわからないものたった。そもそものヤッターマンをよく知らないからなのかもしれないが、ヤッターマンを見た上で確かめようとは思わない。

追記:この作品今調べたら監督三池崇史とのことで。ジョジョは、個人的に4部は話も知ってて好きなので頑張ってほしいと思います(無関心)。

 

老人と海 / ヘミングウェイ

僕個人は恋愛以外の形で人間模様が描かれている作品が好きで、その中でも他者と接する中で過去の自分との異時点間比較をする作品が好きだ。そしてその中で孤独が厳然たる事実として横たわっているものだと最高に良い。

シンゴジラの事も踏まえてまとめると、物語というのは

①外面的に対峙する対象が、モノか人か

②自己認識方法が、時間か空間か

③最終的に、孤独であるか理解者がいるか

の3パターンである程度分類できると思っている。そして僕個人は

①どちらかというと人

②時間

③孤独である

である物語が好きだと思っていた。

この作品は登場人物は最小限に、常に剛毅で力強い自然と対峙している。人間模様が強いとどうしても内面的に弱い部分が描写されてともすれば貧弱さを感じてしまうが(勿論それが感情移入出来てよいのだが)、そうしたところはこの作品においては一切ない。孤独に戦う老人も、衰えの描写こそあるが常に勇敢だ。漫画の戦闘シーンにゾクゾクする感覚を、文学で味わえるというのは新鮮かつ心地よいものだった。

ネタバレであるが、さらに言うとそれでいて絶望が支配するシーンがあり、それがまた僕のような自己防衛のために自己卑下をするしみったれた人間にとってのカタルシス的作用を果たしている。これが良い。情緒は定期的に解放されねばならない。

これまた良い時期に良いものに出会えたと思える一作である。ただもっと年齢の低いうちに読んで然るべきだった気もする。それはツケが回ってきているせいなので甘んじて受け入れるしかないのだが。

 

・武器としての決断思考 / 瀧本哲史

2度目。改めて読んでも良書。高校生大学生の必読書にすべきではと思える。これを読んでいればゼミや授業、サークルなどの話し合いで不幸になる人間が半減するのでほと思えるほど。

感想としては今までやってきたことが間違いないなと再認識出来たことと、大枠だけおさえて細部まで出来ていないのが相変わらずだと気付かされたことの2点が挙げられる。なんかこの項目クソほど面白くないな。

 

・澁谷ルシファー / 花村萬月

主人公は明らかであるものの話の中での中心が入れ替わる群像劇といった感じ。ところどころの強引で御都合主義な展開が釈然としなくて、その違和感のせいであまり読後感もよくない。ただ形成された人格の歪み故か人との接し方、生き方に苦しむ登場人物たちにはどこかしら共感できるところがあった。多分多くの人がそうであろう。

 

・DAYS / 安田剛士

元々知ってて途中からマガジン本誌で追っていたが、思い立ってネカフェで全巻読破。マガジン漫画らしい作品だなと改めて思った。アニメの主人公描写がチープで軽薄だったのが残念。

 

・窓の魚 / 西加奈子

身勝手な僕たちは誰しもが窓の魚だ。
でもそんなもんだ。
傑作。

 

 

なんか思っていたより本を読んでなかった。スキマ時間にダラダラと読んでいたからかな。家にいる時間は音楽を聴き、本を読み、映画を鑑賞し、たまに勉強し、酒をかっ喰らう。クソみたいなというか正しくクソそのものな生き方をしているが、それが自分に生を実感させてくれている。おしまい。

 

 

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Twitterやってるのでそっちもよければ。

ただつぶやいたり、Apple musicでプレイリスト作ったりもしてます。

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雑記:SWに観たり聴いたりしたモノについて①

なんてことはない備忘録のようなモノ。

SWに聴いたアルバムのうちの一部の感想。

 

・Random Access Memories / DaftPunk

2013年グラミー賞受賞作を今更初鑑賞した。

心地よい生演奏で奏でられるテクノたちと日本音楽とを比較すると、時系列的にも品質的にもこの音楽がはるか先をいっているなと再認識させられた。

最小限の情報量で奏でられる音楽は、楽曲としての多様性も申し分なく、横ノリできるダンス感がたまらない。しかしその一方でどこかに寂寥感がある。

現代的でありながら異なる時代の音楽に触れるこの感覚は、まさに現代版ジュークボックスでもあるパソコンから楽曲にランダムにアクセスし音楽の幅を広げるという、物理的に閉ざされながら電子的に開かれた世界を実感できるこの21世紀を表しており、アルバム名もメタファーなのかと思わせられる。何もかもが上質な一枚。

 

・23区 / bonobos

有体な言い回しだけど、現代的でpopな楽曲が煌くボノボ。ブラックミュージック感があるネオシティポップというのはサブカル音楽好き界隈の中で隆盛しているが、これもその一つといえる。

特筆すべきはそれをバンドが本当に上手く消化しているところ。なるほどボノボのシティポップはこうなるなと思わず膝を打てる一枚。もう一年早く発売していたら失禁ものだった。

 

・Lady Miss Warp / 野宮真貴

リオパラリンピックの閉会式に感化されて手に取ったアルバム。一応軽く聴いたことはあったが改めて聴くと音楽の変遷に思いを馳せたくなるような一枚であった。

個人的には渋谷系の特徴は"憎たらしいほどのコジャレっぷり"にあると思っているんだが、野宮真貴は声とマイナー調の相性の良さもあって、渋谷系の特徴に加え"円熟味のある妖艶さ"が特に際立っているように思う。大学生が一丁前に夜の街に飛び込んだ時にまだ早いとあしらってきそうな、そんなうつけモノには手の届かないような存在感がある。

ただ一方でそれは21世紀の私たちからみれば昭和のイメージに似たものであり、それがバイアスとなってこの音楽にも作用しているように思う。野宮真貴という個性は一時代の象徴として、また世紀末のレガシーとして、今という新しい時代の顕現を僕たちに報せてくれるのだ。

 

・Dear Future Husband / Meghan Trainor

DaftPunkの影響でグラミー賞に興味を持って聴いたアルバム。偏見がすごいんだけど、二曲目のAll About That Bassの服屋で流れてそう感が苦手でしっかり聴けなかった。でも言われてみればDear Future Husbandは未来のダーリンに捧げている感はある。僕にとって音楽とは複雑怪奇で、僕はまだその深淵の表面をなぞっただけにすぎないなと思わされた。いいタイミングでいいモノを聴いた。

 

・Home before the dark / Kid Astray

出会い系でやり取りをしていた女の子に教えてもらったバンド。シンセが奏でる極上のポップは色彩美しい世界を映すかのような鮮やかさ。同じシンセポップでもCHRVCHESよりも陽の印象が強いが、これはノルウェーで苦しみながらも生き抜いてきたであろう希望のポップとでも言えるのではなかろうか(因みに苦しみ絶望し、それでも死ななかった人はメタラーである。完全な偏見)。

 

 

例えばブロックチェーンが云々だとか、新時代に即した発展のニュースを見ていると、知性的な意味で豊かに生きないと搾取被搾取云々以前に死んでしまうのではないか(人間が化石になることはないので社会の流れについていけなくなった時に最後に待つのは死だ)と不安になることが多くて

そう考えると、全てで平均前後を抑えること、そのために頭を使って段階を踏んだ自問思考が出来る強度を身につけること、そして何かしらでスペシャルになることが必要なんだなと意識の高い考えが頭を支配してしまう。

そんな時に芸術に触れると、単純にどこか自分の階級が上がったような愉悦感に浸れることは勿論、こういうことがもしかしたら自分を生かすんじゃないかみたいな未来的全能感に包まれる。そして愉悦に浸る。

崇高な志など犬に食わせて、僕は僕が気持ちよくなるために趣味を楽しむぞと思ったが、文字数が半端だからと駄文を連ねる自分には辟易して、自己嫌悪を引きずり1週間に備えるのでした、おしまい。

 

暇を見つけてSW中に見た映画や本については も書きま〜す。STAP細胞はありま〜す。

日記:先週の休日について今頃書く怠惰マンことぼく

(これは全て先週のお話です)

暑い。一体全体誰に許可を取ってこんなに暑くなっているというのだ。万人の心の中に潜むジャイアニズムが僕の心にも出現し、謎の自分中心思考をもたらす。しかし何の問題もない。理不尽には理不尽をだ。マイ剛田が顕現せんばかりに自己主張をしている。

特に深い意味はないが、今日は美術館に行き夜はお酒を飲むという謎に模範的な休日を過ごすつもりでいた。終日細やかな予定を入れた休日を過ごすと逆に怠惰に過ごさなかったことを悔やむような僕だが、一方で予定は効率的に入れたいとも思う。朝起きて暫くブルーライトとそこに映る文字で目を慣らしていると時刻は9時。今から朝風呂をし、荷物を受け取り、その間に洗濯機にかけた洗濯物を干し、部屋を軽く掃除し、少しく仕事をすれば昼前、外出して選挙に行きランチを消化し、美術館に行って帰れば夜のお酒の予定に丁度いい。スケジュールが上手く組めると、自分が日常と自分自身をコントロール出来ている気がして心地よい。その実予定に管理されているにもかかわらずだ。今多分上手いこと言ったな、そう思って僕は再び眠りにつくのであった。おしまい。

 

みたいな感じで久しぶりに日記でも更新するか、などと思いながら今家路についている。

結局、飾りとしての休日を求めていたのかもしれない忙しなきパンクチュアルおじさんの僕は、無事全ての予定を、ほぼ計算通りに、完璧な時間配分で、最後の飲みまで消化したのである。ところが明日は月曜、また新たな1週間が始まろうとしている。もう少しぐうたらしたい、こんなに精力的になることもなかった、などと悔やんでみても後の祭りというやつである。ジャージーボーイズでも見ながらウィスキーをロックで一杯やれば良かったのか。あるいは、積読の風の詩を聴けをそのアクの強いレトリックに1人で難癖つけながら読めばよかったのか。まぁ分からない。日常の濁流に飲まれるだけの枯れ木こと僕は今日という日の最適化にも一苦労するんだなぁ。やれやれ。外は気がつけば多少涼しくなっていた。そうはいっても夜中も暑くなってるんだけども。取り敢えずエアコンをつけよう。

音楽:ぼくの参院選 〜まず三分の二を取らせない〜 邦楽前編

Q:昼下がりの選挙カー演説によって減少する自民党の投票数をフェルミ推定しなさい。

A:日本の世帯数等フェルミに最低限覚えておきたい数値すら全く覚えていないためとても推定しようとは思えません。めでたしめでたし。

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(わけも分からず国会を蹂躙するぼく)

 

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文章力がないので雑記を書こうとすると時間が取られてしまいしかも疲れる、ということで音楽ネタの投稿が続きます。今日は僕の参院選ということで、上半期印象に残っている音楽をさらっと紹介していきます。2chで散見される「〇〇で打線組んでみた」みたいなものです。

ルールは簡単。印象的な順番に当選、当確、優勢、比例復活として2016年上半期リリースの楽曲・シングル・アルバムを紹介します(ただし過去このブログで言及済みの作品は除く)ただし、そもそも印象に残っていなければ紹介されないので、比例復活もかなり好印象です。印象的であることの度合いは完全主観であり統一した判断基準もありません。当該バンドの歴史、新規性、会社の試み、国の音楽的性質…色々な要素があります。というのも、でないとこんなエラそうなことを宣えないからです。フェス行ってベストアクト〜とかいう奴いるけど何なんだと思いませんか?何故お前にベストかどうかを決められないといけないんだ?""基本的には""どれも素晴らしい、皆違って皆良い。

というわけで、今週TSUTAYAで借りてくるCD選びの参考にでもなれば幸いです。早速行きましょう。

 

 

花束を君に / 宇多田ヒカル(当選)

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http://gyao.yahoo.co.jp/player/00101/v12399/v0871400000000543382/

4月に活動を再開した孤高の天才宇多田ヒカル。年末から楽曲を作っているなんて情報も流れて、多くのファン及び音楽ヲタクが期待したかと思いますが、期待に違わない一作。8時になって朝ドラが始まるとき、イントロなしのノータイムで流れてくるAメロの美しさがズバ抜けています。ロ長調の楽曲故に散りばめられた半音のズレが感情のブレその機微を緻密に表現しているようです。そしてピアノと歌声のみなことも相まって余白が多く、単なる寂寥感に終始しない逡巡をもたらします。

何といってもこの楽曲の面白さは手数の少なさ。これは最近の洋楽での流行りな印象も受けますが、フェス音楽隆盛の昨今において活動再開一発目でこの一歩先を行く楽曲をぶつけてきた宇多田ヒカルはやはり天才だと言わざるをえません。大サビ前の垣間見えるR&B感も秀逸です。

同時に発売された真夏の通り雨も圧倒される作品ですが、キリがないですし僕よりもハイレベルなレビューがこの電子世界には数多泳いでいるはずなので、それらを探して読んでみてください。

 

▼ヨシ子さん / 桑田佳祐 (当選)

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桑田佳祐 - ヨシ子さん(Short ver.) - YouTube

久しぶりの桑田佳祐ソロ楽曲。百万本の赤い薔薇はユアタイムテーマソング、大河の一滴は缶コーヒーのタイアップでお馴染みな方も多いかと思いますが、敢えてこのヨシ子さん(一応ヨシ子さんもWOWOWのCMのテーマですが)。無理に単文で言うならば、分別不可能の常識を打ち破る無国籍楽曲。何処となく感じるレゲエ感、メロディ全体のトロピカル感とエスニック感、何処とない古臭さ、サビも判断しづらい複雑怪奇さ…それでいて歌詞は桑田節全開。曲の良さもさることながら、こんな楽曲が世に出ていることを有り難がりたい、そんな衝撃の作品。

僕は兼ねてから桑田佳祐の凄さは新規性と普遍性の両立にあると思っています。常に流行りの音楽(音楽に限らずネタも)を参考にしたり今まで挑戦してこなかったジャンルの楽曲をしたり。それでいて所謂オリコンチャートで上位に来るような、皆が聴きやすいというキャッチーさも兼ね備えていて。今作はその中でも特に新規性を十分に感じられます。

この楽曲のここがオススメ!というのは正直限定しにくいです。ただ打ち込み始め近代的な音楽作りをしてもこんなに個性的なことができるんたという、音楽の無限の可能性を感じられればとそう思います。

 

▼復活LOVE / 嵐(比例復活)

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- YouTube

昨日CDTVを偶然見たことで思い出したので比例復活。個人的には愛を叫べと並んでかそれ以上に嵐を代表する素晴らしい楽曲をだと思います。特に昭和歌謡を良いと思う人は間違いなくどハマりのはず!

まず郷愁への誘いとでもいうべきイントロ。カッティングが、赤黄色の街並みとそこを1人歩く妖艶な大人をイメージさせてくれます。と思いきや、ストリングスが入ってそのまま大野くんのソロで始まる。あら不思議、気がつけばすっかりジャパニーズ・ポップ。黒服で踊る嵐の姿と相まって大人の一曲という印象を受ける楽曲になってますが、このカッティングが随所に盛り上がりを作ってきて、飽きさせない、ジャニーズにも違和感のないキャッチーな一曲に仕上がっています。

あとこの楽曲じつは山下達郎が手掛けてるんですけど、コーラスが本人みたいで。だから何という話ですが、某つ〇く♂さんほどの自己主張はないですが良い味出してますよね。

余談になりますが、イントロの嵐のダンス、ポケットに手を突っ込んで踊っているのも曲の雰囲気にバッチリです。彼らのダンスについては僕は無知なので詳しい方のご意見を賜りたいところです。

 

▼泡沫サタデーナイト / モーニング娘。'16(当確)

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ようやく紹介出来る!!

 モーニング娘。'16『泡沫サタデーナイト!』(Morning Musume。'16[Ephemeral Saturday Night]) (Promotion Edit) - YouTube

人によっては聴いて驚くかもしれないが、LOVEマシーン恋愛レボリューション21の頃のようか変態にしてキャッチーなモー娘。楽曲がここにあります。

この曲に関してはつんく♂、アレンジの鈴木俊介さん、そして楽曲提供をした赤い公園津野ちゃんの凄さを只管再認識させられます。ハロプロ楽曲のその個性は赤羽橋ファンク(すごくざっくり言うと、ファンク感のあるポップソングみたいな感じです、ざっくり言うと。)なんて呼ばれていますが、これ程にファンクで且つキャッチーな楽曲はハロプロ内でもそう多くはありません。低音で、しかも一音半音ずつ下がっていくAメロから、Bメロでパワーをため、サビで爆発するというポップofポップな構成。「なんかハロプロっぽい、つんく♂っぽい」で片付けるのはあまりに早計だと思わせる、そんな一曲です。

個人的には生音重視なのもたまりません。特に終始跳ねるギターの存在感はすさまじく、思わず腰を振りたくなります(意味深ではない)。打ち込み全盛、洋楽後追いなんちゃってEDMが隆盛のアイドル楽曲において絶妙な塩梅でギターとベースが心の臓を揺らします。

またBメロサビ前で歌詞に合わせて段階的に音が上がっていくところがあるんですが、これ実は最後だけ半音くらい上がりきらなくなってるんですよね。こういう細部に意外性を持ち込む緻密さも赤い公園津野ちゃんのセンスなのかもしれません。今回は触れられないと思いますが、赤い公園の新譜もとても良かったので一聴の価値ありです。

あ、個人的には何故このタイミングでゴリゴリのハロプロ楽曲を持ってきたのかと、間奏の鈴木香音トークが苦手なので当選ではありません。でもこれは単純な疑問と好みなので、めっちゃいい曲だよ!

 

 

▼人生はSTEP! / ℃-ute(優勢)

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 ℃-ute『人生はSTEP!』(℃-ute[Life is STEP!]) (Promotion Edit) - YouTube

 最初に聴いた時これ↓を思い出した。

 石川さゆり / ちゃんと言わなきゃ愛さない - YouTube

石川さゆりのこの曲、アニメルパンのOPになってたんですけど超カッコいいですよね〜。

で、人生はSTEPなんですけど、トリプルA面シングルの2曲目のこの曲は、上の泡沫〜とは一転してアイドルらしくなさ全開の楽曲と言っていいでしょう。僕は℃-uteの現場にはいかないので分からないのですが、この楽曲はライブのどのタイミングでやるんでしょう。まぁでも生演奏があってこそな気もするから良いのでしょうか。

終始ストリングスの存在感が半端じゃないこの楽曲、歌唱がそれに耐え得るものだからこそ成り立つものであり、その意味でとてもレベルの高い楽曲だと言えます。また、AメロBメロと続くベースのリフ(ベンッベンッベンッベンベベベンみたいな)が途轍もなくクールで、妖艶で高嶺の花な女性の雰囲気を出してます。嵐の復活ラブの妖しさが背中にエレジー漂う男のニヒリズムなら、こちらの怪しさはウイスキーをロックで飲む唇のセクシーな女性の神秘性と言ったところでしょうか。

あんまりアイドルのことをアイドルらしからぬとかアイドルのレベルを超えたみたいな評価をするのは好きではないのですが、アイドルという括りでは評価しにくい楽曲です。思うにアイドルとはそもそも偶像であるから、歌やダンス、会話、所作振る舞いなどあらゆる性質をコンテンツとして作り上げられた偶像こそにアイドル性が表れるはずなんですが、この楽曲では℃-uteのその存在感が歌の部分に良くも悪くも傾倒しているため他の部分をフラットに評価しにくい、というのがその理由です。

あくまで楽曲として楽しむということを、まぁ復活ラブも泡沫〜も同様なのですが、試してみてほしいなと思うのです。それでピンと来ないならそれはそれ。大好きの出会いはトライアンドエラーの中にある偶然性に基づきます。

 

▼Don't move / MEVAFIVE

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 METAFIVE - Don’t Move -Studio Live Version- - YouTube

これは本来アルバムとして扱うべきですが、敢えて一曲に焦点をあてて、いきます。

各方面から罵声が飛びそうなことを言うと、おじさんが好きそうな音楽で、そういう意味では少しく古臭くもあるこの楽曲、だがしかし悔しいかな頭に残るしクールであることは間違いない。まさに""印象に残る楽曲""です。

知ってる人にはコモンセンスなんだけども、このMETAFIVE、超豪華メンバーで(詳しくはwikiで調べよう)

(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/METAFIVE)

まぁ俺の考えた最強のバンド的なんです。その情報がバイアスになってしまいもするけど、まぁ演奏が一々カッコ良い。これでもかというくらいにかき鳴らされるカッティング、足場ごとフィールドを変えてしまわんばかりのドラムプレイ、ストリングスも打ち込みも圧倒的なパワー。音楽とは音を楽しむと書くし、そのアプローチは自由であるべきなんだけど、この楽曲は「いつの間にか吸い込まれている、楽しまずにはいられない」 という実力に裏打ちされた優しさ故の暴力性とでもいうべき。

ところで昨今フェス至上主義なんて言われて久しいけど、これはシンプルに音楽市場におけるビジネスモデルが変わっただけの話だと思うんですよね。たとえばCD→MD→着うた…と変わっていく中でアルバムとしての余白や順番の必然性・重要性が相対的に低くなったように、現場で生音を聴くものになれば自然とそこに耐え得る、映える楽曲が増えるはず。でもそうした中で作られる芸術たちはどこか後手に回っているような気がして、それって先鋭性が失われているという意味では芸術としてクールじゃねぇな、なんて思うわけです。そこにこの上からのパフォーマンス。どうだお前らと言わんばかりの。こうした無形の力をぶつけてくる楽曲に出会える(出会えた)ってのはすごくハッピーだなぁと再認識したのでありました。

 

 

以上絞りきれないですが取り敢えず7曲。他にも数え切れないほどありますしこのままでは3分の2を取られかねないですが、言い出したらきりがないので軽い紹介とでの記載としていかに書き連ねています。ただ実質的に無限でありますから、また暇があればTwitterとかで情報を追ってみてください。

 

 

サイレントマジョリティー / 欅坂46(比例復活)

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欅坂46 『サイレントマジョリティー』 - YouTube

ヘッドホンをつけてPVを見て初めて鑑賞するような総合的演出を以てして初めてその価値が生まれるような作品。変拍子も盛り上がり作りにごく自然で、単純なようで精巧な作品です。

https://itunes.apple.com/jp/album/sairentomajoriti/id1096512372?i=1096512504&uo=4&at=10l8JW&ct=hatenablog

 

▼ Yamabiko / NakamuraEmi(当確)

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NakamuraEmi「YAMABIKO」 Music Video - YouTube

‎Yamabiko by NakamuraEmi on Apple Music

友人の言葉をそのまま借りるなら"Def techの再来"""。クールなカッティングと絞り出される歌声が頭に染み付いて離れない一曲です。

 

▼ soup / 藤原さくら(比例復活)

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藤原さくら - 「Soup」 (short ver.) - YouTube

‎Soup by Sakura Fujiwara on Apple Music

8割のオーソドックスさと2割の意外性で構成された日常の切り取り方、大事な場面で用いられる最小限の演奏での弾き語りという圧倒的福山雅治感。彼女がその存在感でスターダムに駆け上がるのか、大原櫻子とかchayとかの区別がつかない感じになるのか今後に注目。

 

▼ ワイルドサイドを行け / GLIM SPANKY(比例復活)

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GLIM SPANKY「ワイルド・サイドを行け」MV (SHORT VER.) - YouTube

‎Apple Music

そのボーカルの圧倒的な存在感で最近話題のGLIM SPANKY。映画ワンピースの主題歌も歌い、その曲が入ったアルバムも次期に発売とこちらも今後の結果次第で一気にスターダムに駆け上がりそうです。個人的には去年出した焦燥が最高なのですが、それの色が残ったこの一曲を。悪い意味でsuperflyになってほしくないなぁ。

 

▼Re:Re / ASIAN KUNG-FU GENERATION(当選)

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ASIAN KUNG-FU GENERATION 『Re:Re:』(Short Ver.) - YouTube

‎Apple Music

ピックアップしてたら書きたいことが多すぎて挙句ふざけ散らかしてしまったためここで紹介。これに関しては余計なことは書かないので聴いてほしい。感想はあなたに任せます。

 

▼ Hikageno / トクマルシューゴ(優勢)

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- YouTube

‎Hikageno by Shugo Tokumaru on Apple Music

トクマルシューゴらしい繊細さがたまらない、少しドリーミーな楽曲。心を落ち着けたい時にこれほど最適な一曲はありません。少し砂糖の入ったコーヒーが合う一曲。

 

ポラリス / フジファブリック(当選)

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フジファブリック 『ポラリス』 - YouTube

‎Apple Music

アニメタイアップも増えて志村もいなくてもう新しいフジファブリックはクソなどと言うでない。志村ファブリックとは全くの別物としてそれはそれで素晴らしい。幻想的で文句のつけようのないほどのキラキラオシャレ感。イヤホンかヘッドホンで聴いてね。発見がいっぱい。

 

 

これ3分の2阻止無理でしょと思ったそこのあなた。本番はアルバムのピックアップだから!既に遊びを入れる余裕もないけど、まぁ見とけ〜〜。

 

 

音楽:Whatever People say I Am, That's what I'm Not / Arctic Monkeys

2006年ってもう10年前なんだって。信じられます?僕は信じられません。2006年に何をしていたか、微細なレベルで記憶していると断言できるくらいでございますよ。皆さんは、10年前何をしていましたか?

 

▼AOHARU YOUTH

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10年前の僕はといえば、グラビアで見たほしのあきが衝撃的で女の子を性的な目で見ることを知った、DOTEI LAST BOYの頃ですな。手淫矢の如し (手淫をする時間は矢のように一瞬であり、日々を自慰に過ごしてはならないことのたとえ)。

あとぼくにとって10年前の2006年は、実は「初めてCDを買った年」でもあるんですね。本格的に音楽を聴きだしたのはここ3年くらいだけど、やはりCDを初めて買うっていうのは世代としては大きな行事。因みに買ったのは「Dirty Old Man〜さらば夏よ〜 / サザンオールスターズ」です。

自分で書いて自分で懐かしんでしまいます。カップリング含めて今でも大好きです。ただ実はこのCD、受験勉強における苛立ちのせいで裏面が傷だらけになり、「カップリングのイントロが超ノイジーになる」という事態に陥りました。まぁ後悔はしていませんし、何故かパソコンに取り込んだら普通に聴けたので今となっては完全に笑い話なんですけどね。人に歴史ありってことです。

 

 ▼人生の分岐による個別性の芽生え

小学校高学年〜中学高校くらいにかけて、僕らの周辺世界は加速度的に拡がっていくものです。テレビドラマ、服、恋愛、映画、読書、音楽、スポーツ、上下関係、音楽、性意識、音楽、性意識、音楽…とまぁこんな感じに拡がっていくものですわ。僕は勉強、勉強、勉強、ほしのあき、勉強、佐々木希(僕は佐々木希が極小ビキニ着てた頃から可愛いと思って目をつけていました)、勉強…てなもんです。

まぁそんな音楽との接点がない僕には、この年にArctic Monkeysとかいうバンドがデビューしイギリスから全世界に衝撃を与えていたなんて知る由もない。まさに世界の裏側の出来事なわけです。

ところが、年齢が年齢だと毎日の学校生活以外にその人独自の生き方が見つかり、その人はその人個人となります。するとさらに独自性が深まっていくわけですから、恐らく僕の周りの同世代にはArctic Monkeysをリアルタイムに味わっていた人がいるのでしょう。あなうらやまし。この音楽に、UK音楽の歴史を知った上でリアルタイムに出会いたかった。

というわけで極上のアルバム、Arctic MonkeysのWhatever People Say I Am,  That's What I'm Notについてツラツラと語っていきます。

 

▼異端児はパイオニア

 さて、2002年にイギリスで結成された彼らが英国全土に衝撃を与えたのが2005年。

 https://youtu.be/Ut6z4mONfO8

この曲でその名を知らしめた彼らはオアシスの再来と言われます。曲は、幼稚な言葉で言うとまぁ凄い。圧倒的。冷たさを内包した火炎放射を3分間見舞い続けんばかりのパワー。ガレージロックを出自に感じさせる無骨なギター、でもそれが高速のテンポで、アクセル全開で叩き込まれていきます。アレックスターナーの歌声はヒップホップも聴いていたらしく、随所で韻を踏みつつ(Dancefloor, romance forとかがサビの1番分かりやすいところ!)、矢継ぎ早に、畳み込むように放たれる言葉が印象的です。そしてこれらが相まってそのまま常識を打ち破るパワーとなっているといったところでしょう。今までにない楽曲を唄った彼らは同時に新時代の幕開けも唄っていたのであります。

UK音楽というとビートルズから始まりセックスピストルズ、クラッシュ、スミスズ…いずれも島国らしさなのかどこか陰鬱たとした雰囲気が特徴的で、そこには「隙間」が大きな役割を果たしていてように思います。

一方彼らのこの曲はとにかく畳み掛ける。ラッシュラッシュラッシュ。例えるなら幕の内一歩のデンプシーロール。それでいて浅薄な直情に終始していない。彼らが新しくそしてクールな所以の一つがここにある、僕はそう思うのであります。

 

▼時は来た。それだけだ。

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そして満を持して1st。御託はいいから聴いてほしい。

などと言うことは出来ません。初期の彼等の代名詞とでもいうべき二泊三連の高速ドラムと、そこに乗っかるギター。そして枯れた声質なのに力強いボーカル。ダウンタウンが後の漫才のフォーマットを作ったように、彼らも近代ロックのフォーマットの一つを作ってきたのです。

 

他にも4曲目のDancing Shoes。

Arctic Monkeysの "Dancing Shoes" を @AppleMusic で聴こう。
https://itun.es/jp/HmbOg?i=111153440 

このイントロのDancing Shoes感。ベースが、まるで靴のつま先で地面をタップしているかのような、妖しさ兼ね備えたロックナンバー。4曲目にこれ?3曲目までに導入としての盛り上がりを作って、4曲目からミディアムテンポの楽曲を持ってくるなどしてアルバムを形付ける役割を担うことが多い?4曲目にこれ。有無を言わせないチカラと魂が伝わってきます。

 

そして5曲目以降では彼らのダイバーシティがこれでもかというほど突き付けられます。

 

 Arctic Monkeysの "You Probably Couldn't See for the Lights but You Were Staring Straight At Me" を @AppleMusic で聴こう。
https://itun.es/jp/HmbOg?i=111153486

無駄の削ぎ落とされた、そこはかとないパンク感。

 

Arctic Monkeysの "Riot Van" を @AppleMusic で聴こう。
https://itun.es/jp/HmbOg?i=111153559 

夕暮れ時、腕まくりをしたダンディーのタバコが似合う珍しいバラード。

 

Arctic Monkeysの "Mardy Bum" を @AppleMusic で聴こう。
https://itun.es/jp/HmbOg?i=111153641

こちらも間奏のギターに漢のエレジーが詰まった、メロウ感あるナンバー。

 

Arctic Monkeysの "Perhaps Vampires Is a Bit Strong But…" を @AppleMusic で聴こう。
https://itun.es/jp/HmbOg?i=111153677

ヒップホップのような軽快感。Dancing Shoesとはまた違うステップを踏んでしまいそう。

 

音楽的引き出しの多さがたまらない!!!テクニックを持っていて、敢えて考えてI Bet You Look Good On the Dancefloorを最初に世に放ったのかな?と思えてきます。サザンがいとしのエリーを作っていながら勝手にシンドバッドでデビューしたそのように。

なんと言っても遠く離れた島国日本でも彼らに感銘を受けて音楽をパクっている人たちがいるくるいですからね。

 

http://sp.nicovideo.jp/watch/nm10750112

まぁ彼らは公言しているしオマージュという方が適切なんですけどね。ただアプローチが違うとメロディとか諸々一緒でも少し印象が違って聞こえるというのは面白いね、余談だけども。

 

 

ところでそんな彼ら、2ndで評価を分け…と10年間の間に色々ありました。そりゃそうです。10年もあれば僕はほしのあきの記憶も失い、一丁前にグラビアアイドルでは飽き足らずアダルトビデオに手を出すようになります。勉強も自分が許容する大学に入り、興味ある学問に触れ一定の形になります。初めてCDを買ってから、データで15000以上も音楽を聴くようになります。10年って長い。一小市民の僕ですら激動なんですから、況や世界的ロックスターをやと言ったところでしょう。

今回扱ったのは1stアルバムだし、本当はもっと書き連ねたいけど長くなりすぎるから控えているし、そもそも僕なんかが何かを語るのも少しく無粋に思えます。何より橋本真也ですら長いと言ってしまいそうですから、今は日が昇りきろうとしているけど、When thd Sun Goes Downで終えたいと思います。それではこの辺で、よい休日を。

Arctic Monkeysの "When the Sun Goes Down" を @AppleMusic で聴こう。
https://itun.es/jp/HmbOg?i=111153718

 

音楽:Oshin / DIIVと、音楽を聴くということ。

夢幻泡影。仏教用語とは凄いもので僕たちの人生は儚いということをかくも美しく表現する。 

言語の役割とは、突き詰めれば「頭乃至はカラダで認知した個別的なモノを一般的に認識されるレベルに昇華させること」にあると思う。そして認知することは大きく分けて「気持ちなどの感情及び感覚」「当該の事象にまつわる理屈」の2つである。

蓋し音楽を聴くという行為は、上述のところの前者、つまり感情的・感覚的に認知されなければならない。周辺に溢れる音楽評の多くで様々な人が宣う能弁が書き連ねられていて、それらにどこか高尚さを、ともすれば憧憬すらも感じてしまうが故に、僕らは音楽を聴くにあたって何か大層なことを語れなければいけないような感覚に襲われるが、そんなものは決して本来的ではない。感じることが先、大言はあくまでそれを言語化したもの。言語的洗練は良いことだがそれが聴くことの前にでてはならない。

  

▼Oshin / DIIV

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ところで、女の子に知的って言われたい。

やはり人たるもの賢く見られるに越したことはない。馬鹿っぽく思われたいという感情も無くはないがそれは自分が真に馬鹿ではないという自負心や馬鹿と思われることに予防線を張りたい心故だと思う。かく言う僕もそう。でないと言ってる端から能弁垂れる序文を書くかね。

でも今回のDIIV評を書くにあたってはもう一つ思いがあって。それが聴後?のなんとも言えない深みある浮遊感をなんとか言語化したかったということ。前置きが長くなったけど、始めます。

 

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USのインディーバンドDIIV。USだけどUKバンドをルーツに感じる楽曲を作ってくる彼ら。フロントマンのスミスは元Beach fossilsのメンバー。 

 

https://youtu.be/sPcCWiFa5kA

これがビーチフォッシルズ。

 

DIIVの "Oshin (Subsume)" を @AppleMusic で聴こう。
https://itun.es/jp/DRh9J?i=603224855

こっちがダイブ。

 

ローファイ(音質が今一つな感じのこと)なサウンドが共通しているし、成る程といったところである。beach fossilsはbeachという単語からは意外ですらある高温多湿感と曇天の闇夜感があるが、その点においてはDIIVも大きく違いないように思う。どちらかというと部屋に篭るなど明るくない過ごし方をしているときに聴きたい楽曲たちだ。

実はこの1st、2012年に発売してつい去年まで廃盤だったらしい。2012年といえば僕は日課のオナニーをする余裕もないほど忙しくあまり音楽を開拓していない頃なので全く知らなかったのだが、既に粒の荒い宝石を見るような正の驚きを感じる。当時狂ったように鑑賞していた麻倉憂を見たときも性の驚きを感じていたが…。

あ、あと我らがスミス御大、イケメンである。お洒落で雰囲気も良い。総柄のボトムカッコいいね。ゆとりあるサイズ感のシャツもクール。

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ではここで改めてDIIVの楽曲を。

http://www.dmm.co.jp/digital/videoa/-/detail/=/cid=wanz00502/?i3_ref=list&i3_ord=4 

 

間違えた。

DIIVの「Oshin (Bonus Track Version)」を @AppleMusic で聴こう。
https://itun.es/jp/DRh9J

 

こっち。

バーブやエコーを用いることで奥行きある世界をイメージさせるような楽曲群はThe smithsとか好きなのかなとも思わせる雰囲気も内包している。そしてこの世界観はまさに夢幻というに相応しい。あと、こんなことを書いたらアレックターナーにタバコを押し付けられそうだけども、個人的には曲名が無駄に長くないことも安直でない世界観構築を魅せてくれているようで実にクールである。解釈の余地を残す短い曲名こそクールだよな、あっタバコ熱い。

 

DIIVの "Doused" を @AppleMusic で聴こう。
https://itun.es/jp/DRh9J?i=603224856

特に圧倒されるのはこの曲。ギターもさながら水中で手を大きくストロークしていくかのような鈍い切り裂きを感じるし、ベースの重たさも水泡のように心地よく耳に響く。そのベースが小気味よく鳴り響き始まる楽曲のテンポは決して遅くはないが、それにもかかわらず光差し込まない水中深くを、自分のオンステージとでも言わんばかりに独り占めし楽しんでいるかのような余裕すらも感じさせる。それでいて演奏の終わりは冗長な余韻を持ち込ませない無駄のないアウトロ。

正直この曲を聴いてあまりピンとこないとDIIVの楽曲には総じてピンとこないように思う。最終的には音楽を聴く聴かないなんてのは自分の嗜好性の問題なので僕がとやかく言うことではないけど、大衆邦楽市場どっぷりだとあまり出会わないタイプのこの楽曲、大衆音楽における一流派だと心得て聞いてほしい。

  

ところでこのOshinというタイトルらOceanから来ているらしい。dousedもdouse=水をかける/水に突っ込むという意味らしく、そうすると先の音楽評にもなんだか説得力がある気がするし、これを読んでるあなた独自の音楽評もこの情報に左右されると思う。

でもその瞬間にそれは感情や感覚を言語化した音楽の本来的(と少なくとも僕が思う)聴き方からは逸脱しているように思う。感情・感覚的に聞くというのは、余計な情報を最大限排除して純粋に聴くことのように思う。

ブログを書いていながら壮大な自己矛盾だけど、聴くときはこういった二次情報に振り回されず、あるがままの心で聴いてほしいなと思うのでありました。

 

 

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Apple Musicでプレイリスト作ってます。こちらも是非。

 

①2016年上半期楽曲を中心に、深淵をテーマに光と陰が広がるall洋楽の作品。

ぼくの「2016-06」を @AppleMusic で聴こう。
https://itunes.apple.com/jp/playlist/2016-06/idpl.b648346818eb4767a941aeee1812065d

 

②2016年上半期楽曲を中心に、ジャンバラヤをテーマに「聴いて楽しい」を追究したall邦楽の作品。

ぼくの「2016-07」を @AppleMusic で聴こう。
https://itunes.apple.com/jp/playlist/2016-07/idpl.141fd48fc0ee4b9ab5887dabc99907fd