雑記: 僕の邦楽ベストアルバム2016
一部の頭の良い人を除いて、大部分の僕らは日頃の地道な蓄積とその内省化及び純粋な経験機会の増加によってストックを増やし、それで意思決定の連続である人生をやり抜くしかない。帰省方法の選択の話。
今年聴いた邦楽のマイベストランキングについてのお話です。
以下詳細
題名
- (マイ)ベストアルバム2016、ベスト10
目的
- 僕が今年を回顧&整理すること
内容
- 16年邦楽でマイベスト10をつくる
- ※16年邦楽とは、2016年に日本で発売されたVarious Artist名義を除くアルバム・EPをさす
- アルバム・EPは通しで一周以上したもののみが選考対象
基準
- 僕が出会って良かったと思えた順
- ※出会って良かったかは、感動量の絶対値と定義する。
ところで、本来的に考えるとベストを決めるなんてのはどう考えても不遜極まりない行為であるし、そうでなくとも僕の音楽偏差値では正当性というか妥当性かみたいなものを担保できない。
そうするとどうしても自分の主観による自己満足な振り返りになりそうだけど、どうせ人の数だけ聞き方があるんだから「オナニーで何が悪い?俺のホワイトスプラッシュを見せつけてやればいんいんだ」と思ったので、僕の思うようにやります。来年以降の僕はこれを見て何事も初心と原点を忘れずに頑張ってほしい。
今年の邦楽アルバム視聴総数は137、そのうち11です。長いので、万が一読む人がいたら、順位の下の理由の部分だけ読んでくれれば大体わかるので飛ばしてください。
10位:sora tob sakana / sora tob sakana
sora tob sakana/夏の扉(MV) - YouTube
理由:ちょうど良さにピンと来た
例えるならば、ハイボールに合うことを目指して追究に追究を重ねたバルの唐揚げ。
「アイドルは楽曲から入る派です」なんて人が能弁を垂れるまでもなく、楽曲の独自性が加速度的に増している昨今。佃煮にするほどの数のアイドルがいる以上当たり前だな、差異化が図れないもんなと思って例年通り音楽を漁り続けてるけど、楽曲で差異化を図るアイドル、まぁ転がってる転がってる。
正直sora tob sakanaもその1つではあるんだけど今回は所謂残響系が上手いこと調和しているなぁと。どうも詳しい人曰く今作はベスト的なところがあるらしい。次回以降に期待が高ままる。
10位:STAND!! / フジファブリック
理由:メンバーが変わり向きは違えど、絶対値は同じ
日本の音楽関係者でフジファブリックの志村が1番大好きなので、その志村なきフジファブリックからいつの間にか離れていたけど、今作は間違いない。
フジファブリックらしい変態性と、何をしてもハマるカメレオン的な山肉さんのボーカルと、喜怒哀楽豊かなキーボードとが噛み合って止揚に辿り着いている感がある。フェス御用達アップチューンからおどろおどろしな三拍子まで、透明な煌めきから湿地帯の暗がりまで。今までのvoyagerとLIFEも、ここに来るまでのホップステップなのでは?と勝手に物語を作れるなどして、もうたまらない。
久しぶりに自己紹介で「何の音楽聴くの?」と聴かれた時に「フジファブリックとかかな〜」て言いそう。
高校の帰り道よく行っていた定食屋の高くて注文してなかったメニューを大人になって里帰りした時に注文してみたら…そんな気持ちになる一品。
9位:天声ジングル / 相対性理論
相対性理論「天声ジングル」予告篇 / Soutaiseiriron - "Tensei Jingle" teaser - YouTube
理由:食わず嫌いを克服
バンドサウンドとやくしまるえつこのボーカルとが最高にちょうどよかった相対性理論はいつの間にか暴徒と化したサブカルのパワー(それは最早サブと冠することに違和感を覚えるほどだ)に飲まれていった。子供は好き嫌いを克服し、ティーンは色恋をし、拗らせ成人も気がつけばまともになった。僕が珍しさのストックで自己を確立しようとする自分に懐疑的になり始めたのもちょうどこの頃だった。相対性理論という最高にちょうど良いバンドを、逆張りのイタチごっこを始めた僕が敬遠するのは今振り返っても必然だったと思うし、あまつさえそれが暴徒化した形而上の怪物ともなればそれはもう絶対に触れたくない。
だがしかし、歳をとると思う。「屁理屈並べて好き嫌い作るの、良い歳こいてヤバくない?」。大人になるのだなんとなく僕らは。星野源を見てほしい。武道館くんだりまで連れてってもらった挙句にそこで狂気の音楽を披露していた男が、今やポップでキュートなサブカルのファッションアイコンとなり新垣結衣にかまされ続けらまでに至った。ところで石田ゆり子に布団をかけてほしい。
話を戻すと、成長した僕は欺瞞や偏見なく音楽を聴こうと思って、そして相対性理論を聴いたら、ギターとボーカルちょうど良いじゃんって思ったってこと。それに昔ほどクドくないようにも思う。それが物足りない人が多いんだろうけど、僕はポップで親しみやすくて良いと思う。バレンタインやハロウィンを資本主義が産んだ異常な風習だとかいって嫌忌する奴より、特別に好きではなくても付き合って楽しんだり、それはそれと尖らずに分け隔てない態度をとる人の方が良いでしょう。僕たちはもう20年生きてる。
例えるならオシャレだけどシンプルで、奥が深くて子供の頃は有り難みがわからない、じっくり煮込んだポトフ。マスタードを軽く添えてさらに美味しく。
8位:D.A.N. / D.A.N.
D.A.N. - Zidane (Official Video) - YouTube
理由:先を進みすぎなオシャレさ
最近の音楽トレンドは、洋楽追従→ガラパゴス邦楽ときていると思っているけど、次は日本発の洋楽がきたって感じ。あくまで全洋楽分の1のバンド。この路線はyahyelとD.A.N.でツートップだと思ってるけど、個人的にはD.A.N.の方が理解できる。
妖艶なベースラインにマッチする薄味なのに耳に残る不思議なボーカル。ジャズ感、ヒップホップ感、ロック感、素人の僕に説明がつかない何層にもなった音楽。それでいてメロウで日本人の耳にも合いやすい。オシャレ極まってるはずなのにNulbarichほどお高い感じもしない。
上質で具体的な話を聞きたい人は、もっと凄い人のレビューを見て。
例えるなら、表参道のスペイン料理店特製のパエリア。
7位:A Long Day / ミツメ
理由:邦ロックがここにあったのかという発見の喜び
邦ロック、なかなかこれと言ったのないな、なんて言いたいニワカ音楽ヲタだったけど、ミツメには完敗。これこそ"ロックバンド"の出す音。
一曲目のあこがれから始まる、情緒的で肩肘張らないバンドサウンドは、ロックと言えば激しい、ロックと言えばアップテンポ、ロックと言えばのりやすい、ロックと言えば軽薄、みたいな一人歩きした定義的な何かを優しく再構築してくれる。それでいて、最小限に最適解と思える演奏で高い芸術性も担保されてる。そしてアルバムを聴き進めると増してくる重厚さ。全くもって飽きがこない。二重にも三重にもなった衝撃。本当に感動的な出会いだった。6月再生数No.1。
例えるなら、近所にあるちょっと汚い中華料理屋で出会った1番うまい麻婆豆腐。
6位:醒めない / スピッツ
理由:スピッツにそれをされたら何も言えないという思い
音楽好きな皆さんが総じて言っている気がする"ロックバンドである初期スピッツの良さ"みたいなものが、ようやく理解できた気がする。
ポップとロックの塩梅という意味で丁度いい(相対性理論の丁度いいは、ギターとボーカルの塩梅)。僕の音楽偏差値ではこの感覚を表現できないけど、なんというか実はめちゃくちゃいい出汁を使っているような印象。ギターのカッティングの小気味良さによってさらに箸が進む。まぁ進む。スピッツすごい。
例えるなら…麺は細麺ストレート、具材はネギとメンマとチャーシュー、オーソドックスだけど奥が深い、名店の絶品塩ラーメン。
5位:ソルファ(2016) / ASIAN KUNG-FU GENERATION
ASIAN KUNG-FU GENERATION 『リライト(2016ver.)』 - YouTube
理由: 現代邦ロックが出来る大衆性と芸術性の一つの到達点
音楽の想い出聴きに否定的で、かつ基本的に逆張り野郎なので、騙されないぞなどと警戒して入ったけど、それでよかった。だからこそ、この極上の10年代半ばのロックを、しっかりと十二分に堪能できたから。
リバーブが印象的なギターは終始アレンジされているけど、これこそが現代ロック。万能の調味料を絶妙に使うのはまさに職人の技。そして存在感抜群にして力強く全体を導くベース。落ち着いてるけどその落ち着きに意思を感じるゴッチのボーカル。
前作Wonder Futureで見せたシンプルだけどモダンなラウドロックは新しいアジカンの時代を感じさせるものでとてもよかったけど、その続きを、過去作との比較をどうしても避けられない再録という形で、ともすれば新時代の形を否定されかねない形で、鮮やかに見せてきやがったアジカン。アオハルそのもの。
例えるなら、普通にしても美味しいけど工夫次第でどたらにも転がる、でも結局は基本の下準備と炒め方で勝負が決まる、料理の基本野菜炒め。
12/31追記
そういえばRe:Re:ってシングルからもまた編曲重ねてるよね?気合いを感じて良さがありますね。
4位:COLD DISC / ストレイテナー
ストレイテナー「COLD DISC」全曲ダイジェストスタジオ一発撮り【360°全方位動画】 - YouTube
理由:ただただぐうの音も出ない
ストレイテナーは文句無しにカッコいいロックを打ち出してきていたけど、変化球が好きな自分にはアクがなくて、それ故にあまりピンと来ていなかったのだけど、このテナーは何も言えない。
研ぎ澄まされたロックの鋭さはそのままに編曲を通して増した親しみやすさ。語彙力がないから原色→シーグラスの流れに模範解答かよとなった。こんなことされたら陳腐な評論なんてひとえに風の前の塵に同じ。マジで全ロックキッズが聴くべき珠玉の一枚。
例えるなら、二つの世界の融合で作られた料理であり、それっぽくは出来るけど独自のアレンジと経験に裏打ちされた腕前で高みを見せられるとそこには超えられない壁がある、和食シェフの作る肉じゃが。
余談だけどスピッツ醒めないと本質的に似通っている気がする。
3位:君の町にも雨はふるのかい? / シャムキャッツ
Siamese Cats - SUTENEKO (Official Video) シャムキャッツ - すてねこ - YouTube
理由:シンプルに好きな音楽
これは音楽的な何かや歴史的なインパクトとかは一切関係なく、ただ自分の過去の蓄積の中で最高に好きな音楽が出現したというそれだけ。余計な説明不要。
素朴で気怠げなロックはどこか心を掴む魅力を持っている。あれ、説明してる。
例えるなら、土曜の昼に食べる実家の慣れ親しんだ味の炒飯。
2位:COSMIC EXPLORER / Perfume
[Official Music Video] Perfume 「FLASH」 - YouTube
※album.verとは異なる
理由:凝縮された絶対性と先進性
JPNが新時代に見せたジャパニーズエレクトロポップの形の一つなら、COSMIC EXPLORERはこれぞ日本人が作るEDMの在るべき形そのものというレベル。
そう言えばテクノポップアイドルだったPerfumeは、ボーカルが最高に生かされていて且つ日本人の耳に最高にフィットするエレクトロな編曲を通して、現代音楽の一つのキングダムを築けるレベルのジャパニーズEDMを見せて来た。
ギラギラのEDMの前半、シングル曲で飽きさせない後半、どちらも悪くないしどちらもあるからこそ良い。個人的にはシングル曲たちのアルバムミックスがどれも秀逸で驚愕。アルバムverを聴いてシングルverを聴きたくなったことは過去にもあるけど、ここまで聴きたくなったのは初めて。
Cling, Cling、Hold your Handあたりは好みが分かれるか。
例えるなら日本を代表する料理。魚を選ぶことから薬味のチョイスまで、凡ゆる場面でいいと思うものを取り入れ、見せる表情も異なる。大衆向けのものもあるけど、ここは洗練度合いが一味違う。ミシュラン三つ星の高級寿司。
1位:Fantome / 宇多田ヒカル
※ハイレゾ音源配信を拾うかCDを借りることをお勧めします。
理由:高すぎる期待値を超えるクオリティ、世界を一気にアップデートする先進性、復活どころか今が最高と確信するほどの洗練性
#宇多田ヒカル の #Fantôme は、最早幻となりかけていた美しきJ-popが陰翳広がる虚空の中に表れたその気配を感じさせる作品、まさにFantômeだ。ここにあるのは日本ポップス界の希望と可能性そのもの。J-popの現在地は今、圧倒的な力で強引に、然し正しく修正されている。
— ぼく (@Toyoda9a) 2016年9月27日
例えるなら、最高の土鍋で最高のお米を最高の職人が炊いた白米。
以上。長くなったからこれで終わり!また別に書きたいことは投稿したい。
※12/31追記
今年の邦楽を一言で表すと「融合と淘汰の1年」だったと思っている。数年前をピークに分岐が始まったオルタナロックたちは、アップテンポを極めた快楽物質の純度が高さを目指しつつもテンポや編曲で一工夫を入れて、オリジナルなフェスロックを目指す外的且つ内的な闘争が続いてるように思う。また一方で昨今隆盛なブラックミュージックのリズム感や多様化した編曲を独自に解釈し落とし込んだロックが、特にベテランを中心に見られ、ハマったそれらのパワーは新興勢力やサブカル勢を置き去りにするほどのものだった。
時を同じくして、ブラックミュージック一辺倒でシティポップを出してきたサブカル勢アーリーアダプター組もその数があまりに膨大になり淘汰の時代に向かっているように感じる。そこからの分岐はオルタナロックと同じ。音楽を聴くに際してリズム感がわりと気になる僕にとっては、この変化はシティポップのインパクトを弱めるものだった。だからなのか、bonobosやLucky Tapesの新譜もとても良かったが去年聴いていたらもっと衝撃だったのかと少し残念な気がする。こう考えると、自分の聴き方故にここでは音楽を満喫しきれなかったように思う。
ただ全体的には、「新規性・普遍性・意外性・多様性」を個人的良い音楽の定義とする自分にとっては最高に良い一年だったように思う。一つの山を越え分岐点に来た音楽はその性質が多様化され、ありそうでなかった新しさ(新規性)や、懐かしさや個性を感じるアレンジ(意外性)、そしてそうした淘汰の時代だからこそ生き残るために重要な普遍性が求められていたからだろうか。
この2016年を、サブカル沼にちょうどよく浸かり、Apple Musicを使いこなせるようになり、手を出せていなかった音楽に手を出す機会を得た状態で迎えられて本当に幸運だったと思う。そしてその状態に至るまでに関わった友人や先輩や後輩メディアにありがとう〜って伝えたくて。